俯瞰(ふかん)とは、物体間の距離を認識する能力のことであり、深視力とも呼ばれます。
また、そこから発展して、横から平面的に見た物を頭上から3次元的に見たように変換して認識する能力のことを指し、バードアイ、イーグルアイなどとも呼ばれています。

つまり、ピッチの中で見ているものを、テレビでサッカー中継している画面のような角度に変換して、ピッチ全体を見渡すようなイメージです。

これは、サッカーにおいてはとても重要で必要な能力ではありますが、かなり高度で、難易度が高い能力でもあります。

中盤でパスをさばいてバランスを取ったり、攻撃を組み立てたり、キラーパスを出したりする、ボランチトップ下などのポジションに特に必要な能力ですが、現代サッカーにおいては、ビルドアップはディフェンスからと言われています。最終ラインからしっかり繋いで組み立てたり、前線へのロングパスを狙ったり、後ろからコーチングの声を出すためにも、ディフェンスゴールキーパーなどの選手にも求められる能力です。

かつての日本代表、中田英寿選手がこのバードアイを持っていて、振り返らなくても後ろのどこに誰がいるのか分かった、という話を聞いたことがある人もいるでしょう。

どうしてそんな事が可能なのか?

それは、事前に首を振って周囲の状況を確認し、その映像を記憶して、次にどうなっているかを予測する。だから、自分がプレーする瞬間には振り返らなくても後ろのどこに誰がいるのかが分かる、ということです。つまり、バードアイの正体は、この『予測』なのです。

①首を振って周囲の情報を集める。この時に眼球運動を使って、より効率的に周りを見ると良いでしょう。

②そして周辺視も使い、より広い範囲の情報をより多く集める。

③その情報を、瞬間視の能力で映像として記憶する。

④その記憶を元に、次にどの選手がどう動くのかを予測する。

この予測をする時にバードアイに変換するのです。次にどうなっているかを、バードアイで上から見た映像としてイメージする。これが、バードアイの正体です。

現役の選手の中では、遠藤保仁選手や中村憲剛選手などがバードアイを持っていると言われています。実際に、2人はそれぞれの著書の中でこう語っています。(参考資料リンク参照)

~遠藤保仁選手の著書『眼・術・戦 ヤット流ゲームメイクの極意』より~
『すべての選手を見るのは難しいんですけど、調子が良い時は「ここにいるだろうな」というところまでドンピシャで分かります。』

~中村憲剛選手の著書『サッカー脳を育む』より~
『上空から見てる感覚で90分プレーできたことは1度もない。ただ、少しだけ高い位置からピッチ全体を見渡してプレーしている感覚はある。』

しかし、プロのサッカー選手といえど、全ての選手が持っている能力ではありません。一部の限られた選手しか持っていないでしょう。とは言え、バードアイは、一部の才能を持った天才だけが持ち得る能力というわけでもありません。トレーニングによって、誰にでも獲得しうる能力です。

中村憲剛選手も著書の中で、『バードアイは明日すぐに身に付くものではない。昔から持っていた能力ではなくて、時間をかけて少しずつ身に付けてきたものだ。』と書いています。遠藤保仁選手も同様に、子どもの頃からの訓練の積み重ねによる結果だという旨を語っています。

バードアイには経験則も必要です。横から見てこうなっている時、上から俯瞰で見るとどうなっているのか? それを実際に見て、比べて、知っていると、そのデータの蓄積によって瞬時に変換できるようになります。

実際に横から見た画と上から見た画を比べて結び付け、頭の中にデータを蓄積させていく。そんなトレーニングも行っていきます。

バードアイは、スポーツビジョンの中でも最高難易度の能力です。おそらく、サッカービジョントレーニングを行ってもすぐに完璧に身に付けられる選手はいないでしょう。しかし、サッカービジョントレーニングの中でバードアイの基礎を学び、日常生活から俯瞰的な視野で見ようとする習慣を身に付け、トレーニングを続けていくことで、将来的にきっとバードアイの能力が花開く瞬間が訪れることでしょう。

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